80年代シンガポール葬式事情
私は1980〜81年までシンガポール国立大学に国費留学した。同じ宿舎にいた仏教研究会の黄君と仲良しになり,日曜は一緒に寺院めぐりをした。
中国式の寺院は朱や青を基調とした極彩色で吐き気をもよおすほどである。
黒い衣を着た在家信者たちが合唱団のように整列して読経している。一方、仏壇の前では老婆が赤い線香をかざして跪いて祈っている。
最も私を興奮させたのが葬式である。なんと不謹慎なと思われるかもしれないが、とにかく楽しい。
まず最前列から制服を着た吹奏楽団や鼓笛隊が勇壮と演奏しながら行進していく。その後、白い喪服を着た身内の者が銅鑼や太鼓を叩きながら練り歩く。喪服が白いというのが日本と違う。中国語で「白事(パイシー)」といえば、葬式のことである。そしてトラックに神輿を載せたような霊柩車が続き、泣き女たちがわめきながら歩いていく。泣き女とは朝鮮半島でも見られるが、死者のために号泣する女性のことである。半狂乱になって号泣するほど死者を悼む気持ちが強いと考えられている。
だから葬式はどう見てもカーニバルのようである。この葬式行列が町を練り歩くと交通が渋滞する。しかもドンチャカ夜中まで騒ぐので、政府側も中国式葬儀は午前零時以降やらないように規制している。
寺で火葬にするときも面白い。寺の火葬場は黄金の神殿のような造りで、黄色い衣を着た僧侶たちが銅鑼や太鼓をジャンジャカ叩きながら出棺する。
なにか京劇でも始まりそうでわくわくした。私も死んだら北京から京劇団を呼んで、火葬場の前で京劇「覇王別姫」でも演じてもらいたい。思わず棺桶から飛び出してしまうかもしれない。

