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史上最悪の履歴書 ―中原中也の就職活動―

 中原中也、といえばみなさんはどの作品を思い浮かべますか。やはり有名な「サーカス」や「汚れちまつた悲しみに……」という方が多いと思います。しかし、こういった作品のほか、中也はこんな日常風景を切り取ったような詩も書いています。

 「あゝ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ/ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ/月給取の午休(ひるやす)み、ぷらりぷらりと手を振つて/あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ/大きなビルの真ツ黒い、小ッちゃな小ッちゃな出入口/空はひろびろ薄曇り、薄曇り、埃も少々立つてゐる/ひよんな眼付で見上げても、眼を落としても……/なんのおのれが桜かな、桜かな桜かな」(「正午――丸ビル風景」より)

 生涯、「月給取」にはならなかった中也がこの詩を文學界に発表したのは、死ぬ直前、昭和十二年のことでした。前年に最愛の息子文也を亡くし、本人も気落ちのあまり身体を壊し、療養生活を送っていた中也は、この丸ビル前の風景をどのような感慨でながめていたのでしょうか。圧巻なのは、中也の視線の移動です。最初はぞろぞろ出てくる「月給取」の群れを俯瞰的に見下ろしているのですが、いつのまにか群れの中に立ち入り、埃にまみれ、桜を見上げたりしている。このあたり、対象との距離感や視線の移動が絶妙な効果を生み出す、中也ならではの書き方です。もっと言えば「一つのメルヘン」等にもみられるように、中也は自分の痕跡を次第に蒸発するように消し去っていく手法をよく使うのですが、読み手はこの一連の動きを違和感なく読めてしまう点がすごい。

 さて、こんな中也ではありますが、実は「月給取」となるべく、NHKの面接を受けたこともあるのです。しかし、職歴のところに「詩生活」とだけ書き、面接担当者に「これでは職歴にならない!」と言われ、逆に「私にこれ以外何があるというのか?」というようなことを言い返し、不採用になったのだとか。ああ、たしかに。中也には、詩以外何もなく、作品の中で溶解する自己の像のように、三十歳で夭逝したのでした。

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