アメリカと北朝鮮が同調?核軍縮決議案
今回の内容も北朝鮮の核実験から派生する話題です。
国連総会には軍縮と国際安全保障関係のすべてのテーマを議論する「国連総会第一委員会」という組織があるのですが,先週,そこで日本政府が提出した核軍縮決議案が賛成169,反対3,棄権8で採択されました。後ほど総会に上程されますが,採択されても総会決議にとどまるため拘束力はありません(国連総会の決議は新規加盟承認などの例外を除き拘束力は持ちません)。同種の決議案は1994年から毎年採択されているのですが,今回のものは過去最多の賛成票を得ているという点で意味があるものといえます。
ところで,この決議案に反対した3カ国とは,アメリカ,北朝鮮,インドでした。
おや?と思われた方も多いでしょう。インドはともかく,核をめぐって対立しているアメリカと北朝鮮がともに核軍縮についてともに「反対する」という共通した姿勢を示したのです。
これはどういうことなのでしょうか?もちろん,両国が協調路線を歩むことになったわけではありません。このあたりを確認するために少し状況を整理しておきましょう。
現在,核兵器の拡散を防止する基本的な国際的枠組みとしては,NPT(核兵器不拡散条約)という条約があります。NPTでは,1967年1月1日以前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国のみを「核保有国」と規定し(この条件にあてはまるのはアメリカ,旧ソ連=ロシア,イギリス,フランス,中国の国連安全保障理事会の常任理事国5カ国です),それ以外の国をすべて非核兵器国として,核兵器の保有や製造を禁じ,核兵器の拡散を阻止することを狙いとしたものです。
明らかに安保理常任理事国に特権的地位を与えているわけですから,この条約が不平等だという声は強いです。また,核保有国を5カ国にとどめるのはあくまでもNPT上のことですから,NPTに加盟していなければたとえ核兵器を開発あるいは保有していたとしてもNPTを根拠に非難することはできない理屈になります。そのため,実際に核実験を行い,核保有を宣言したインド,パキスタンはNPTに加盟していませんし,核保有が疑われているイスラエルも加盟していません。北朝鮮もかつてはNPTに加盟していましたが,2003年に一方的に脱退を宣言して現在に至っています。
北朝鮮は,NPT体制に対する疑義をあまり強く表明することを避け,昨年までは核軍縮決議案に対して棄権を繰り返していました。しかし,今回の決議案の中にはNPT体制の遵守に加え,北朝鮮による核実験に対する非難が盛り込まれたことを受け,より強い意思表示である「反対」という意思を鮮明にしたわけです。北朝鮮代表は,核実験はあくまでも自衛のためのものでやむをえずとった措置であり,北朝鮮としては朝鮮半島の非核化を願望している,とコメントしています。
一方のアメリカには別の事情があります。
先ほど述べたNPTでは,核兵器不拡散には不十分であるばかりか,内容上大国優先主義が明らかですから,より核軍縮を進めるものとしてCTBT(包括的核実験禁止条約)という条約が整えられつつあります。CTBTは,宇宙空間も含むあらゆる空間(水中や地下も含みます)における核実験の実施,核爆発を禁止しているのが主な内容で,条約を発効させるには,1996年6月時点におけるジュネーヴ軍縮会議の構成国で,国際原子力機関の文書に原子炉として掲載されている施設を持つ44カ国すべての批准が必要とされています。しかし,そのうち,アメリカ,中国,インド,パキスタン,イスラエル,イラン,北朝鮮など12カ国が批准していないため,発効できない状況になっています。
正式な核保有国であるフランスやイギリスはすでにCTBTを批准しているのですが,アメリカは,ブッシュ政権以降,CTBTについては批准放棄の方針を採っています。そのため,決議案がCTBTの早期発効と批准作業の促進を要請していることに対して,反対したわけです。
このような状況から,核を巡って国際的な緊張関係にある北朝鮮とアメリカが核軍縮決議案に関しては揃って反対するという事態が発生してしまったわけです。今回の珍事は核管理体制が大きな曲がり角に来ていることを示しているといえるでしょう。

