混迷続くイラク情勢 シーア派とスンニ派がイラクで争う理由
現在,イラクではイラク戦争後最悪の状態といわれるほど国内情勢が混沌としてきています。11月23日には,首都バグダッドのイスラム教シーア派居住区サドルシティー(イスラム教シーア派強硬指導者ムクタダ・サドル師の拠点)で連続爆弾テロが発生し,200人以上の死者が出ました。
このテロへの報復からか,シーア派の民兵組織はスンニ派の拠点に報復を開始し,宗派間抗争激化は避けられない見通しです。イラク政府はバグダッドに夜間外出禁止令を発令したり,首都国際空港の閉鎖を宣言するなどの対応をとっていますが,治安改善の展望は暗澹としています。
シーア派,スンニ派ともイスラム教の一派です。そもそもイラク国内でこの2派はなぜこのような争いを起こしているのでしょうか?
そこで,紛争の背景にあるシーア派とスンニ派,また,両派のイラクにおける立場についても確認しておきましょう。
スンニ派とは,預言者ムハンマド(マホメット)が樹立した慣行や規範(スンナ)を守る一派で,イスラム圏では多数派を占めています。
一方シーア派とは,ムハンマドのいとこで娘婿であるアリーを後継者としてアリーとその子孫をイマーム(指導者)と認める一派で,イスラム圏全体では少数派ですが,イラクでは多数派を占めています(イランでもシーア派は多数派です)。
イラクでは人口の約60%がシーア派で,イスラム圏内で多数派をしめるスンニ派は約20%にしかすぎません。ところが,イラク戦争前のフセイン政権時代には,少数派であるスンニ派が政治の主導権を握り,多数派のシーア派が冷遇されていました。それがイラク戦争でフセイン政権が倒れると,今度はシーア派が勢いづき,現政権においても主流派を占めることになりました(議会ではシーア派勢力が第一党です)。このような過去の経緯もあって,ここのところ両派の利害対立が先鋭化しているわけです。
なお,イラクには第3の勢力としてクルド人もいます。クルド人はクルディスタンとよばれるトルコ,イラン,イラクにまたがる地域に居住していたインド・ヨーロッパ系の民族で,独自の国家を持たずにトルコとイラクにそのほとんどの人々が居住しています。宗派としてはスンニ派に属していますが,フセイン政権時代にはアラブ系のスンニ派のように優遇はされず,逆に少数民族として迫害を受けてきました(生物兵器による集団殺戮も行われたといわれています)。ちなみに,現在のイラクのジャラル・タラバニ大統領は,クルド2大政党の1つであるクルド愛国同盟(PUK)に所属しているクルド人で,クルド人がイラク大統領に選出されるのは初めてのことでした。
このような宗教的・民族的背景から,アメリカ寄りであったはずのイラク首脳部にも反米勢力の急先鋒といえるイランと手を組むという動きも出てきています。ということで,イラク情勢はまだまだ目が離せません。

